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事業者認証の本質
多くの事業者は30年に向けて国連の持続可能な開発目標である17のグローバル目標と169のターゲットから成るSDGs を実践する、または準備をしているが、その推進はあくまでも経営者の判断に委ねられ、また独善的な解釈で公表されているのが実態だ。これまでの取り組みだけを自己診断して公表している場合があるが、今後の事業内容や経営方針を変更して開発目標を達成する方法、人的・経済的支援の内容、達成度の分析結果、ビジョンタイムラインなども追加して公表することで、SDGs が本来の意味を成す。
しかし、こうした自己評価だけの場合、12年にリオデジャネイロで採択された「持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組み(10YFP)」の英語サイトにアカウントを開設し、自己診断結果を入力するなどしなければ、国際社会で評価される機会は少ない。事業者にとって、取り組みを自社サイトに掲載することはやさしい半面、その努力が認められにくいのが現状である。2020年現在、今までのサイトが集約されOnePlanetとなっている。
消費者マインドを分析すると、SDGs の達成に貢献することはよいが、169もあるターゲットの達成度を他社と横並びで比較するわけでもなく、公表結果も信ぴょう性に欠けると見ている。そのため、持続可能な観光の国際基準に準拠することでSDGs の達成の裏付けが可能となる第三者機関による認証制度の導入が、ヨーロッパを筆頭にアジア太平洋、中南米、アフリカを含む地球規模で活発になっている。
従来型観光は時代錯誤
大量消費・大量送客で誰もが楽しめる団体型・発地型観光は、日本をはじめ世界に大きく貢献してきた。いまや観光関連産業は10人に1人を雇用する巨大産業に成長し、昨今のインバウンド熱が相まって新規投資や雇用をした事業者も数多く、観光立国に方向転換するまで見えてなかった伸びしろが経済の底上げになると期待されてきた。しかし、自然災害や経済状況、政治的判断や今回の新型ウイルスなど、一瞬にして著しい影響を受ける脆弱な産業であることも忘れてはならない。
また、地球温暖化の深刻化でさらなる悪影響に直面すると先読みされており、観光は持続可能でなければならない産業として対策を遅滞なく講じる必要がある。よって、経営者は事業者レベルで何ができるかを考えることが求められている。
SDGsよりも持続可能な観光の世界で多用されるのが、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)と策定する2本立ての国際基準(観光産業用GSTC-Iと観光地用GSTC-D)である。昨年度から委員として発言の場を得た観光庁の日本版持続可能な観光指標に関する検討会では、GSTC-Dを基盤に勉強会と検討会が重ねられ、まもなく自治体やDMOを対象として観光地域に成果が公表される。今年度はモデル地区を選択し、私を含む3人のGSTC公認講師が各地で3日間に及ぶ研修を行い、日本版の指標を活用した診断がされていく。グローバルな視点をローカルで見ていく分析が主な内容だ。
一方で、事業者を対象としたGSTC-I 基準における国内の動きは、一般社団法人JARTA(Japan Alliance of Responsible Travel Agencies=責任ある旅行会社アライアンス)に普及活動は限定される。持続可能な観光の実践を目指すこの組織は、外資系や地域色の濃いユニークな旅行会社の計11社(3月現在)で構成され、GSTC 基準の核である4大項目を含む5項目に賛同し、入会審査と理事会承認を経て入会できる仕組みだ。
昨年12月には東京で旅行会社とツアーオペレーターを対象に、GSTC 認定団体であるトラベライフによる研修会を日本で初めて開催した。英語のみの研修会であったにもかかわらず、11社18人の参加があった。サステナブルな活動の意義や認証制度に挑戦するメリット、課題解決に向けた具体的な取り組み方など、実践的な研修内容が評価された。同時に、同業者が持続可能性について意見交換や交流をする機会をつくることの重要性を認めることとなった。
JARTA はトラベライフの日本法人として、認証制度の導入・支援・審査と並び、事業者向けの持続可能性に関する研修の開催を計画している。7月には、宿泊施設や事務所における省エネポイントの指導やグリーン購入に関する勉強会を遠隔システムも活用して実施するほか、GSTC 項目にも該当するCO2排出量の算出ができるオンラインシステムを今年度内に導入する予定だ。
旅行事業者を評価する指標となるGSTC 項目とは何か。いくつかの例を挙げてみる。
①持続可能性の観点を含めて利用客の満足度を測定し、必要に応じて是正すべく、修正・調整を行う(例:バスの待機中・停車中のアイドリングストップや地産地消の徹底などについて、評価をお客さまからもらっているか。アンケート結果を受けて次の行動に移しているか)。
②顧客に周囲の自然環境、地域文化、文化遺産の情報を提供・解説し、訪れる際の適切な行動の説明も行う(例:国立公園などの自然保護区で絶滅危惧種や生物多様性のインタープリテーションを行い、節度ある行動を促す案内ができているか)。
③伝統的な集落や地域コミュニティーでの行動規範は、影響を受ける地域コミュニティーとの協働と合意の下で策定し実施する(例:集落にある滝を訪れ、夏場の遊泳利用、神聖な場所への立ち入りに関して地域住民と合意しているか)。
④使い捨て商品や消耗品の購入と使用を管理し、積極的に削減する方法を模索する(例:箸や弁当箱はリターナブルでペットボトルを提供しない、コピー用紙やトイレットペーパーはグリーン購入しているか)。
美しい景観を楽しめる場所に誘客すれば、その景観を守るための責任が生じる。観光地であっても、そこには生活する住民がいる。訪れてよしだけのKPI だけでなく、住んでよしも長期的に担保するための取り組みが必要だ。訪問先の経済効果を上げるための現地採用、地元業者の優先利用、地産地消の徹底、通過型から滞在型、発地型から着地型への転換など、いまからできることは多い。
地域が潤わない観光はその地域から敬遠される。旅行事業者として食べていくなら、地域を味方に付け、環境保全にも寄与することは当然の責務。SDGsの達成は国際基準を教本とし、まず初期診断をしてみてはどうだろう。
トラベルジャーナル2020年4月27日号弊社代表寄稿本文を修正・記載。(2020年5月16日)
責任果たすため
格付けの時代到来
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