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国際認証制度の現況
世界的基準踏まえ
各国の考えに特徴
観光における持続可能性は、言葉こそ最近聞くものの、エコツーリズムの国際年は2002年。わが国でも1990年頃から環境配慮が重要視される国立公園や世界自然遺産などを中心に取り組みが行われてきた。国際的にも同様で、特に観光地の成熟市場で知られる欧州では、地域雇用や消費を促し、社会・文化・環境の側面で透明性を確保するため第三者による格付を行う認証団体が次々誕生した。しかし、数百に及ぶ認証団体と認証制度の乱立は消費者を混乱させ、お金で買える認証団体の台頭まで招くこととなった。
このような状況を受け、国連財団(UNF)が既存の認証制度と基準の研究を始め、世界50以上の団体が連合し、サステイナブルツーリズムの国際基準を作るためのパートナーシップであるグローバルサステイナブルツーリズム協議会(GSTC)を2008年に組織した。後に国連環境計画(UNEP)、国連世界観光機関(UNWTO)の呼びかけにより、この協議会はサステイナブルツーリズムの共同理解を深めることを目的とし、また策定した世界共通の基準は「最低順守すべき項目」と位置付け、国連加盟国での順守が求められることとなった。これ
らの項目には、次世代のための観光地の保全、貧困撲滅、文化遺産の保護、持続可能な世界を実現するために17のゴール・169のターゲットからなる国連「持続可能な開発目標」(SDGs)実現への寄与、観光地やその他地域における新規雇用創出、観光地の経済効果創出などが含まれている。 2008年に最初に定められたのが宿泊施設およびツアーオペレーター向けの国際基準(GSTC-HTO)だが、策定過程には約8万人の観光関連事業者の声を集め、2000人以上の専門家の意見を聞き、5回の協議会を通して18カ月かけて審議が行われたことを今でも鮮明に記憶している。当時すでに実現されていた約4500項目の基準も同時に分析する作業が実施され、最終的にこの基準はISEAL(国際社会環境認定表示連合)の適正実施規範を満たすことができた。GSTC-HTO は、①効果的な持続可能計画、②地域コミュニティーにおける社会経済的な恩恵の最大化、③文化遺産への悪影響の最小化、④環境負荷の最小化という4つの柱で構成される。
続いて2013年11月に、持続可能な観光地向けの国際基準(GSTC-D)を策定した。評価指標と基準はGSTC-HTOと同じ4本柱に基づき構成され、サステイナブルツーリズムの実践を定義する最も基本的なものとなる。このGSTC-Dは2019年末は改訂された。わが国でもDMO に注目が集まるが、観光地における持続可能性は国際的に最も注目される分野である。旅行者も旅行会社も、環境面および社会面において信頼できる観光地を選ぶ傾向がある一方、気候変動や史跡の崩壊、環境収容力の制約、また新コロナウイルス発生後の衛生管理など、世界の観光地はかつてないさまざまな脅威に直面する。各観光地の管理者は持続可能な観光地の経営戦略を見直し、行動を起こし始めている。
明確でない認証メリット
わが国の現状を見ると、持続可能な観光を国や組織で促進する枠組みは存在しても、具体的な国際基準と指標を用いて認証できる団体は唯一、京都市に事務局を置いて2018年まで活動していたNPO 法人エコロッジ協会のみとなる。(2008年後はアジアエコツーリズムネットワークと合併)しかし、宿泊施設の台所事情を公開することへの抵抗、認証による集客やマーケティングのメリットがまだ明確でなく、国の支援もなかったため、登録施設は11軒であった。
国内の法制度としては、観光地の適切な利用と保護の均衡を促進する目的で、07年に成立したエコツーリズム推進法があるが、日本独自の取り組みで、昨今注目されている訪日外国人の一部が、観光地、旅行会社、宿泊施設を選ぶ際に利用されている国際認証制度の導入には、まだ時間がかかると予測される。
NPO法人日本エコツーリズムセンター(東京)は、「エコツーリズムで地域を元気にしよう!」を合言葉に国内外で事業展開するが、2014年度から2018年度まで、独立行政法人環境再生保全機構の地球環境基金の助成を受けて「サステイナブル・ツーリズム国際認証」事業を実施した。具体的な事業内容は、①国際基準の推奨基準と指標の和訳、②魅力ある地域づくりとGSTC 基準の活用を問うセミナーの開催、③ GSTC 公認講師になるための研修参加、④国内でGSTC 公認講師による研修の開催および教本や事例集の作成、⑤わが国におけるGSTC 基準に準拠した基準の策定に向けた枠組み作り、⑥ GSTC年次総会や関連のある国際会議出席と日本の事例発表などであった。2019年度から観光庁で持続可能な観光指標に関する検討会が開催され、国際基準を地域づくりの一環として意識の高い観光地をモデル地区に導入支援が行われる。数に限りあるモデル地区を選択し、幅広い普及啓発活動は民間企業に委ねられる。
地域目線での枠組みづくりを
現在、GSTCの国際基準に準拠する国際認証制度は、宿泊施設およびツアーオペレーター向けが26団体、観光地向けが国際認証3団体と国内認証3団体で、今後も増えていくだろう。重要なのは、GSTC が定める最低評価基準に上乗せして策定される各基準の性質や特徴により、持続可能性の考え方、マーケティングの範囲などが異なることだ。
例えば、環境意識の高い欧州の観光客が欲しい観光地や事業者は欧州の制度を取り入れる、また国・政府レベルでは独自の国際基準を策定したいという流れも多く見られる。
近年の国際観光化と飛躍的な訪日観光客増加が地域経済や地域社会の活性化をもたらす一方で、治安の問題や地域食材の外部調達(中国野菜を使った京料理など)、プライバシーの侵害(白川郷で布団を天日干しするだけで写真を撮られるなど)等々、基準や規範がない観光地の質を悪化させている。また、国内観光は鈍化し消費額も落ち込んでいる。観光はこれまで旅行会社や役所ばかりが推進してきたが、地域創生に関わる多種多様な産業の参加を促し、日本版DMO を組織化するだけに満足せず、地域目線での枠組みづくりを熟成させることが求められる。新コロナウイルスの影響で、郊外での長期滞在や小グループ対応のきめ細かいサービスが一層求められることとなるであろう。持続可能な観光地が更に求められる時代が到来したといえる。
トラベルジャーナル2017年1月2日号弊社代表寄稿本文を修正・記載。(2020年5月16日)
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